アルファ156 V6のアクセルを踏んだ。アルファは終わったんだなぁ、と実感した。

アルファ156 V6のアクセルを踏んだ。アルファは終わったんだなぁ、と実感した。

アクセルをコンマ5センチ開けると、コンマ5センチ分、エンジンがレスポンスする。1センチにすると、1センチ分。
徐々に開けていくと、徐々に回転が高まっていく。その開け方を少し早めると、エンジンの鼓動の高まりも、少し早くなる。
ドン、と床まで踏み込むと、ゲートオープンされた競馬馬みたいに、どっと一斉にパワーがわき上がり、タイヤが地面を蹴っ飛ばす。

すごいよ、すごく良いよ。このレスポンス。
このレスポンスの気持ちよさ、快感は、NAにしか味わえない。うちのアバルト プントのレスポンスもいい方だと思うけど、このエンジンを体験しちゃったらダメだ。過給エンジンのムリというか限界をヒシヒシと感じる。

しかもこのエンジンは、Alfa Romeo純正。
1970年代終わりのアルファ6から連綿と続くV6だ。アルファ・エンジンの良さを、このV6も受け継いでる。

例えば回転フィール。オーケストラのように規律を持って回っている。だけど、ドイツ車みたいに重々しいフィールはぜんぜん無く、あえて言うなら、自由な感じ。うまく言えないんだけど、制御されるのを待ってる、というより、機械が自分から回りたがってる。だからドライバーが“見せムチ”した程度でも、エンジンは待ってました!、とばかりに駆け出す。それが冒頭のレスポンスにつながってる。

しかも回転フィールが上質。軽々しかったり、薄っぺらな感じはひとつもない。厚みや重みを備えた部品がきちんと組み立てられ、それが回ってることが回転の全域で感じ取れる。だから伝わってくるバイブレーションの感触も、どことなく上品なんだ。今回のエンジンはV6なので、バイブレーションは4気筒ほど多くないし。

ホントのことを言うと、うちのアバルト プントの回転フィールには、上質感はない。はっきりいって実直。金属と金属が、こすれあったりして生まれる振動や音がもろに伝わってくる感じ。フィアット製の実用エンジンなので、そこはほとんど期待してないけど。

アルファエンジンに話題を戻すと、あとはもう誰もが言うように、音が違う。本当の、エンジンサウンドがする。良い部品をきちんと組み立てた“楽器”だからこそ発せられる、上質な音、感性に響く音。
この点が、うちのアバルト プントとは決定的に違う。うちのは、さっきも書いたように、バンとくりぬいた鉄板がこすれあうような、実直な音。実家の隣が鉄工所だったので切削機とかプレス機とかの音を一日中聞いていた(聞かされていた)けど、それと同質の工業的な音がする。

要は、出自が違うんだ。昔からの、昔ながらの、アルファロメオのエンジンは。
いってみれば、貴族の家柄。ああいう家では日々の食事をするにも、使うお皿やフォークやナイフなどのシルバーなどでも、ちょっとずついいのを使っていて、例えば食べ終わったあとにお皿やシルバーを片付けるときも、何となく響きの良い音がするでしょ。ああいう気品ある上質な雰囲気が、昔からのアルファのエンジンには脈々と受け継がれてたんだよ。

反面、僕らがふだん使ってるIKEAの皿とかシルバーは、そんなに良い音がしないでしょ。カン!なんて、たまにふざけたような音を出すし。ちょうど、うちのアバルト プントをアイドリングさせて、その音を聞きながら僕が「町工場の音だよな、これ」って思うみたいな。

そんな普段使いのモノしか知らない庶民にとっては、気品あるアルファのエンジンは素敵だったし、憧れだったんだ。
あの素敵さが、今回乗った156V6にもたくさん感じられた。良いなぁ、と僕は心から羨ましくなった。

その系譜も、今や途絶えた。僕が昔乗ってすごく感動したアルファロメオは、もう今はない。

フィアット製のアルファロメオに乗るくらいなら、フィアット製のフィアットでいいんじゃないか。
と思って今のアバルト プントを選んだわけだけど、そんな僕のチョイスは間違ってなかった。
そのことが、今回の156V6TIに乗せてもらったことで「反面的に」再確認できた。

(ありがとう、Mr.Y いつまでも大切に乗ってください!)

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アルファが面白かった頃の一冊