そこまでして恨み晴らそうだなんて、ご苦労なこった [ 夏の読書感想文(笑)「トヨトミの野望」 ]

そこまでして恨み晴らそうだなんて、ご苦労なこった [ 夏の読書感想文(笑)「トヨトミの野望」 ]

「若者にモテたいからF1に参入する」
って、当時のトヨタ社長、奥田 碩さんがF1参戦発表の記者会見で言ってたのをテレビニュースで見て、はっきりと憶えてる。僕はずいぶん不埒(ふらち)でヨコシマな動機だなあ、と、トヨタF1はあまり応援する気にはなれなかった。可夢偉は好きだったよ。

不遇な関係者の負の感情を煮詰めた暗い本

「トヨトミの野望」という本が出てたのは知ってたけど、どうせくだらない暴露本だろ、と思って読む気はなかった。でも創業家に冷遇された人々の恨み辛みをかき集めて作った本と聞き、興味が湧いてきていまさらながら読んでみた。
この本では、1995年から4年間、トヨタ社長を務めた奥田さんをモデルにした人物が主役。ということはつまり、奥田さんとその一派の恨み辛みが全編を通して語られてる。奥田さん、こんなにスゴイ人だったんだぜ、みんな忘れないでくれよ、とアピールするための本だ。

奥田碩さん
https://ja.wikipedia.org/wiki/奥田碩 より

実はこの奥田さん、トヨタの売り上げを改善した立役者だったのに、社長退任後はなぜか、トヨタ社内でも一般社会的にも影が薄かった。で、この本を読み進めると、なるほど、そうだったのね。と合点いくこと多々。
奥田さんのやり方はトヨタ販社出身の人らしく、販売・マーケティング主導だった。ぶっちゃけ、数字と規模を追った、売らんかな経営。それはイイことだろ、なんか悪いことでもある?って、この本の中に連綿と綴られてる。
奥田さんのあの時期、確かに企業としてのトヨタの業績は良かった。でもさ、その代わり、作るクルマはめっきりつまらなくなった。で、章男さんが社長になってから「良いクルマづくり」へと、ものづくりの本道に一気に回帰した。そうした前任者の否定と方針転換は、メーカーとして今後生き残るために当たり前だったと僕は思う。そのへんの軋轢というかガラガラポンが奥田さん一派の不満や不信を生んで、それが積もり積もってこの本になった、ということなんだろう。
余談だけど、章男さんのモータースポーツを「社長の道楽」とくくってしまうあたりは、書き手の作り話だとしてもくだらない。日刊ゲ■ダイくらい低レベル。一方で、ホントに社員が言ってたら底が浅すぎ。おまえら何作ってるんだったっけ?

創業一族は、企業の背骨

「創業一族による同族経営は、悪」も、このトヨトミ三部作で貫かれてるテーマ。なので奥田さんを持ち上げる一方で、トヨタ創業家をこき下ろしてる。奥田さんは豊田一族に雇われてる使用人だよ、とか。
でもさ、それ言うなら、フォルクスワーゲン=ポルシェ=アウディ連合なんか、もっとスゲーよ。あからさま。おととし、EV急進派のフォルクスワーゲンの雇われ社長が、創業一族のポルシェ家とかから、チョン、とばかりにクビ飛ばされてるけど、あれは、東洋の田舎から見ててもびっくりしたぞ。
雇われ社長は、成績が命。だから、数字や規模を追って、やることがついつい、とっ散らかりがち。そうなったとき奥座敷から創業家が出てきて本筋に戻す。そういうやり方、僕は良いんじゃないの、と思うけど。
創業家は、いってみれば背骨ですよ。ピシッとしてる会社は、いいモノ作ってる。
スズキも創業一族による同族経営みたいなものだけど、先日、クルマづくりに関して凄い内容のプレゼンしてた。ブレてない。
ホンダは本田さんちは関与してないみたいだけど、ピンチになったときに必ず「宗一郎さん」が社員の口に上ってくる。
それに対して、雇われ社長が代々続けているN社は、、、以下略。

大爆笑のラスト!!

本に戻って、そのラスト、そうきたか!と。そこまでデッチ上げちゃって大丈夫?(フィクションだからいいんだけどさ)、と爆笑しちゃったよ。この本の続編「トヨトミの逆襲」で、どんなふうに収めていくの、と心配になったり。
また次は誰が出てくるの? どんな恨み辛みがあったの??って興味シンシンになってきた。なんだかワイドショー見てる気分(笑)。
本のつくりは、ト書きの多い台本みたいで、読んでて煩雑、ときに退屈。文章自体も、妙に粗い書き方で分かりにくかったり、急に文学的になったり、タッチがコロコロ変わる。そのあたり、何人かの編集スタッフが共同で作ってることがモロバレ。
「トヨトミの野望」の全体的な感想を言うと、
奥田さん、やっぱりキライ、
章男さん、やっぱりスキだわー!
俺は経済紙記者でも経営者でもない、単なるクルマ好きなので、「イイクルマを作ろうよ、楽しもうよ」って言い続けてる章男さんの方が、奥田さんなんかより、断然好きだし共感できる。で、そうなるプロセスとか理由が、この本でよーくわかった。
でもさ、こんな手の込んだコトしてまで恨み晴らしたい、だなんて、大企業の人間どうしの軋轢からくる負のパワーは、よっぽど根が深くて重いんだろうな。ごくろうさま。

ご本家から「トヨタの子」も

この「野望」の次は「逆襲」、そして「世襲」と、トヨトミ・シリーズは三部作になってる。そのカウンターとして、「トヨタの子」が出版されたそう。
アンチな「トヨトミ三部作」(小学館)と、ご本家「トヨタの子」(講談社)。なんでも本家版は、トヨタ本社自身の持ち込み企画なんだとか。トヨタからのアンサーソングならぬ、アンサーブック。どうりで「トヨタ」と本名を乗ってるわけだ。
三部作がブラック&ネガティブ・ストーリーなら、トヨタの子はホワイト&ポジティブ・ロマン?
で、真実(あるとするなら)は、それらの真ん中あたりにあるんじゃないか、なんて思ったり。


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