オブリガード、マッサ。2016 F1 ブラジルグランプリ

マッサは、F1ワールドチャンピオンになったことがあった。ほんの数十秒だけだったけれど。

2008年のブラジルグランプリ。トップチェッカーを受けたマッサは、その瞬間、ポイントランキングのトップに立った。チャンピオンだ。
しかしそのわずか数十秒後、5位でフィニッシュしたハミルトンに、1ポイント差で逆転された。ほんの数十秒の戴冠。

あれから6年。赤い跳ね馬から、ブルーを基調としたトリコローレのストライプが美しいマシンに変わった。
そして、母国でのラストランを迎える日が来た。

ウイングに「OBRIGADO」、スポンサーネームの替わりに「MASSA」と入れられたマシンが用意された。
いつの間にか消えてしまうドライバーが多い中、ここまで愛されるドライバーは少ない。

レース結果は、クラッシュでリタイヤ。場所がピット入り口付近だったこともあり、そこから彼の“引退セレモニー”が始まる。

国旗をはためかせながらピットへ。6年前のつかの間の戴冠が脳裏をよぎったのか、それともやはりリタイヤで終わった母国でのデビューレースを思い出したのか、時折涙をぬぐいながらピットレーンを行く。

いつもは騒がしいブラジルの観客も、沈黙で彼の動向を見守る。目をぬぐう人もいる。テレビ中継に、目を真っ赤にしたコースオフィシャルの表情がアップで映し出される。

マダム・マッサが、待ち構えていた。
怒られた少年のように肩を小さく丸めたマッサが抱きかかえられた。妻というより、まるで母のように彼を包み込み、抱きしめた。冒険から帰ってきたわが子を迎えるように。その光景を彼らの子どもが不思議そうに眺めていた。

そして、白いユニフォームが待つピットへ。
途中、赤い一団が彼を待ち構えていた。フェラーリのメカニックたちだ。総出で彼を温かく迎える。繰り返されるハグ。
かつて見なれた光景。しかし、もう見られない光景。

決して、華があるタイプではなかった。
でも、走ることへの情熱と、セナ継承者としてのプライドがあった。
彼がいるおかげで、F1という舞台の最後のワンピースが埋まる感じだった。

僕が思うF1パイロット、マッサはそのひとりだった。
オブリガード、マッサ。

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