オーガニックなクルマ、ってあると思う。
オーガニック・コットンやオーガニック野菜は、好きですか。そもそも、オーガニックには、「有機」「有機的な」といった意味のほかに、「本質的な」「根本的な」といった意味もある。
そういう意味では、クルマにもオーガニックな技術やメカがあると思う。
僕が思うに、自然吸気で6気筒以上の多気筒エンジン、トランスミッションはマニュアル、後輪駆動、といったアイテム。いずれも、昨今のニューカーの開発で生産効率や環境負荷の観点から、クルマから“削ぎ落とされ”ている技術やメカだ。
確かに、燃料消費を考えるとハイブリッドやダウンサイジングターボの方が有利だろうし、ツインクラッチの方が早く確実に変速できるし、スペースユーティリティを考えると後輪駆動よりもFFの方が圧倒的に効率的だ。
だけど、僕があえて「オーガニック」と書いたように、それらの技術やメカは、僕にとっては本質的なものだ。
自然吸気エンジンの低回転から高回転までナチュラルで素直なレスポンス、多気筒エンジンの高回転の伸び、ギアとクラッチを使って走るときのリズミカルな走行感覚、後輪駆動ならではの押し出すような挙動、アクセルを踏んでコーナリングする感覚。これらはどれもクルマを運転する上で本質的で根本的な喜びだ。
こういう、オーガニックな技術やメカ、それらがもたらす、“オーガニックな運転感覚”こそ、僕にとってはこれからますます貴重で大事になるんじゃないか。
なぜそんなことを思ったのか。それはある日曜日、友人と試乗に出かけたときのこと。
友人の車はポルシェ ケイマン、最後のNAフラットシックスを積んだモデル。
試乗したのはBMW M2とi8。M2は直列6気筒ターボ、昔からのBMWの延長線にあるようなモデル。それに対してi8はまったく新しいパラダイムから生まれた、実験的なスポーツハイブリッド。
そのサイズ感から直6が生み出すサウンド、それによる走行感覚に、オーガニックな雰囲気を感じた。
一方、i8はサプリメントのビタミン剤のような印象。疑似エグゾーストサウンドが室内にも車外にもスピーカーによって“演出”されていると説明を受けたせいもあるかもしれないけど、単に運転する気分や行為を体験するマシンだと思った。有機野菜が食べられないときにビタミンサプリを利用するように、オーガニックなガソリンエンジンが使えなくなる時代の高機能な代替マシン、それがi8だった。
そして、ケイマンに乗って帰ってきたわけだけど、実は一番ホッとしたというか、この日乗っていていちばん良いと思ったのは、実はこのクルマ。
ターボも付いてない、“素”のフラットシックスの何と自然なこと。アクセルを踏んだときのエグゾースト高まりと後輪から伝わるトルク感が、絶妙にシンクロして、躍動感を身体中に伝えてくれる。アドレナリンが、自然とわきあがってくる。
「これこれ。こういう感じが、一番いいな」
僕は、友人につぶやいていた。
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