新しいけど、古かった。BMW i8 試乗記

新しいけど、古かった。BMW i8 試乗記

「じゃあ、このサウンドはツクリモノなわけ!?」と、僕。
「はい。室内にも、室外にも向けてスピーカーがあって、そのときエンジンのエグゾーストを作って流しています」と、同乗したBMWのスタッフ。

i8のエンジンは1.5リッターしかなく、スポーティカーらしいサウンドは期待できない。そこで「サウンドジェネレーター」という特別な装置で、スポーティなエンジンノートを演出している。そんなギミックが、i8にはあちこちにある。

たとえば、液晶のメーターパネル。ノーマルモードで走るときはブルーを基調に落ち着いたトーン。これをスポーツのモードに切り替えると、パネルが真っ赤に染まる。まさに、i8のやる気スイッチというわけだ。

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ガルウイングのルックスも凄い。両側のドアを開けていたら「見てみて、i8がドアを開けてる」と人が寄ってきた。動物園の像がハナをぐっと持ち上げてポーズをとったときみたいだ。

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でも、よく考えたら、これらは僕らが昔から知ってる価値観だ。
わざわざ作って出しているエンジンサウンドも、やる気スイッチも、ガルウイングも、なにひとつ新しくない。
もっと言うと、エンジンサウンドなんか、開発側も僕らも、昔からの固定概念から抜け出せないことを証明しているようなものだ。

「エンジンサウンド、しょぼいよねー」「これじゃテンション上がらないなー」「だったら作っちゃってもよくね?」
「スポーツカーは、やっぱカッコよさげにしないと」「ガルウイング、ヤバくない?」「あー! それメッチャいい!!」
みたいなことをBMWの開発者はドイツ語でマジで話し合いながら作ったんじゃないか。

唯一、新しいと思ったリアクォーターの空力処理。最新のFord GTはここがバックリと抜けた処理となっている。
唯一、新しいと思ったリアクォーターの空力処理。最新のFord GTはここがバックリと抜けた処理となっている。

ハイブリッドで次世代のスポーティカーを作ろうとしたんだけど、結局、身にまとったのは過去の文脈だった。ガルウイングとかムリヤリ作るエンジンサウンドとか、昔からよく使われているアイコンでしか「スポーツ」を表現できなかった。ハイブリッド時代のスポーツを提案できなかった。それがi8だと思った。

マーケティング的に、スポーティカーとしての分かりやすさを考えたら、いまのようなパッケージが落としどころだったんだろうな、と。ちょっと先進的な分かりやすいスポーティカー。1,800万円もするクルマだし、やはり価値として分かりやすくないと売れないよね。

その代わりといってはアレだけど、同じハイブリッドでもi3の方は高効率タイヤを開発したり、軽量化を推進したり、こちらは次世代のクルマとして先進的なことをあれこれ追求している感じ。

さすがのBMWを持ってしても、ハイブリッドで次世代のスポーツを表現するのは難しかったのかな。結局、みんなが親しんできたガソリンエンジンの価値をあちこちに散りばめないと、「ハイブリッドのスポーツ」を表現できなかったのかな。
そういう意味では、化石燃料時代から再生エネルギー時代へ移行する、まさに過渡的なクルマだな、i8は。
などとぐるぐる考えていたら、試乗が終わった。

「メーターの色が変わるなら、いっそのこと、外観もガラッと変わっちゃえばいいのに」なんて、試乗中に笑いながら話していた。
スポーツモードに切り替えたら、トランスフォーマーみたいにカタチを変えるスポーツカー。ぐっと低く身構えて、トレッドが広くなり、フロントとリアからウイングがせり出してくる。2人乗りのフォーミュラカーみたいになって(実現性はさておき)。
そのときのサウンドもジェット機のような高周波のサウンドで、シュッと瞬間移動するように走り去っていく。

そんな、アッと驚くような次世代のスポーティカーが走り出すのは、まだまだ先なんだろう。